「万年筆を使い始めたけれど、仕組みや構造がよくわからない…」
そんな方も多いのではないでしょうか?
本記事では、万年筆の基本的な構造や仕組みを初心者の方にも分かりやすく、図を交えて解説します。
これを読めば、万年筆の使い方がもっと楽しく、深く理解できるようになるはずです。
万年筆の世界に一歩踏み込んで、その魅力を存分に感じてみましょう!

この記事さえ読めば、万年筆の基本はバッチリだよ!
万年筆の構造の概要
万年筆を構成する4つの要素
まずは万年筆の全体の構造です。
万年筆は、大きく分けると
- ペン先 … 金属でできており、紙と直接接触する部分
- ペン芯 … ペン先を裏側から支え、ボディからのインクをペン先に送る部分
- ボディ … 書くときに握る、万年筆の本体部分。インクが貯められている
- キャップ … ペン先が乾かないように保護するための部分
の4つの部品から構成されます。


キャップやボディは他の筆記具と同じなので分かりやすいですね。
一方、万年筆に特有な部分として「ペン先」と「ペン芯」があります。





ここからは、4つそれぞれの部分について詳しく見ていくよ!
1.ペン先
ペン先は五角形の独特の形状をしていて、「万年筆の頭脳」とも呼ばれる書き味を決める重要な部品です。
「ペンポイント」「切り割り」「ハート穴」「刻印」の4つの部位があります。


ペンポイント
万年筆のペンポイントは、ペン先の先端に位置する球体のような形をした部分のことです。
紙と直接接触するため、イリジウムという金属を主成分とする非常に硬い合金で作られています。


このペンポイントの大きさや形状によって、字幅が変わります。
ペンポイントが大きいほど字幅は太くなり、小さいほど字幅は細くなります。
切り割り(きりわり、別名:スリット)
切り割りは、ペン先のハート穴からペンポイントまでインクを届ける役割をもっています。


この切り割りの隙間は非常に狭く、更にはペンポイントに向かうほど狭くなっています。
これは「毛細管現象」という原理を利用して、重力とは関係なくペン先へインクを押し出すための構造です。
ハート穴(ハートあな)
切り割りの端にある、穴のことを言います。
現在は多くの万年筆では丸い穴ですが、昔はハート型の穴が多かったため「ハート穴」という名前がつきました。
このハート穴があることで、筆圧をかけたときに切り割りの根元付近にかかる力が分散され、ペン先にヒビがが入りにくくなります。
一方でハート穴は必須ではないため、ハート穴がない万年筆もあります。
刻印(こくいん)
ペン先の表側には装飾とともに、メーカーのロゴ・素材(14Kや18Kなど)・字幅が刻印されています。
特に中古の万年筆を購入するときなど、これらの情報は重要です。
字を書くときにはこの刻印がされた面が上になるように持つのが正しい持ち方です。
なお、刻印されている字幅は万年筆によって異なります。
大まかにいうと、下記の3つのサイズが基本になります。
- F(FIne=細字)
- M(Medium=中字)
- B(Broad=太字)
この他にも、Fより細いEF(Extra Fine=極細)、FとMの間のFM(Fine Medium)、Bよりも太いBB(Broad Broad)などがあります。
字幅は基本的には変えられませんので、万年筆を購入する際にはどの字幅にするのかをしっかり考えましょう。
また、字幅はメーカーによって少し変わります。
例えば同じF(細字)でも、欧州のメーカーのFの方が日本メーカーのFよりも少し太い傾向があります。
確認したい場合は、購入前に実際に店頭で試し書きをするとよいですね。
補足:ペン先の素材について
ペン先は素材で大きく2つに分けることができます。
素材によって書き味や価格が大きく異なります。
鉄製のペン先 | 金のペン先 |
---|---|
素材:ステンレス 書き味:硬い(カリカリ書ける) 耐久性:低い(金ペンに比べ腐食しやすい) 価格:安い | 素材:14K(金58.5%)、18K(金75%)など 書き味:柔らかい 耐久性:高い(金なので腐食しにくい) 価格:高い |
2.ペン芯
ペン芯はペン先にインクを送り続ける「万年筆の心臓」です。
ペン先の割り切りと同様に毛細管現象を利用してインクが流れるように設計されています。
また、ペン先にインクが流れた分だけ空気を取り込み、スムーズで安定的な書き味を実現します。
ペン芯はペン先の裏側に位置しその内部構造は見えにくいですが、ペン芯には「インク溝」「空気溝」「櫛溝」の3種類の溝があります。


インク溝(いんくみぞ)
インク溝は、その名の通りインクが流れる溝です。
ペン先を取り外すと、切り割りのすぐ下にインク溝が位置しています。
インク溝も切り割りと同様にペン先に近いほど狭くなっており、毛細管現象を利用してインクをペン先に届けることができます。
空気溝(くうきみぞ)
空気溝は、インクタンクに空気を戻すための通路です。
この通路がないと万年筆はうまく書くことができません。
ペットボトルの水を飲むときをイメージしてみましょう。
飲んだ水と同じ分だけ、空気がペットボトルに入っていきます。
万年筆のインクも同じで、空気を取り込んであげることでスムーズにインクがでるように工夫されています。
また空気溝から送り返す空気の量によってインクが出る量が決まるので、空気溝の設計は万年筆の書き味に大きく影響します。
櫛溝(くしみぞ)
ペン先の裏側に見える、段々がたくさん重なったような形をしているのが櫛溝です。
万年筆によっては、ペン先ではなく首軸のあたりに内蔵されているものもあります。
この櫛溝は、普通に使う分には必須ではありません。
櫛溝が力を発揮するのは、飛行機に乗ったときなどの気圧が低くなったときです。
気圧が低くなると、インクがたまっているインクタンクの中の気圧が相対的に高くなります。
インクは気圧の高い方から低い方へと流れるので、インクが一気に外に漏れ出てきてしまいます。
この時に、インクの避難場所になるのが櫛溝です。
漏れ出てきたインクは一時的に櫛溝にためられるため、低気圧でもペン先からインクが噴き出すことはないのです。



色々と工夫を重ねた結果が、今のペン芯の形なんだね!
3.ボディ


ボディは万年筆の本体部分です。
太さや長さ、デザイン、形状は万年筆によって様々です。
書き味はペン先とペン芯によって決まる一方、万年筆を持ったときの持ち味がこのボディによって決まります。
ペン先に近い方から、「首軸」「同軸」「尻軸」の3つの部分からなります。
胴軸(どうじく)
万年筆の中で最も大きな部位です。
内部にはインクを貯めておくための空間があります。
インクが入った別部品であるカートリッジやコンバータを使う場合、首軸との間のネジを外し、この胴軸の中に入れます。


首軸(くびじく、別名グリップ)
ペン先と一体になっています。
胴軸内のインクタンクやコンバーター、カートリッジとペン芯とを接続する部品です。
万年筆を使うときにはこの首軸を握るため、握り心地のよい太さ・形に設計されています。
尻軸(しりじく、別名:尾栓)
内部にインクを貯めて置くためのインクタンクがある万年筆の場合、この尻軸を使ってインクを吸入します。
インクの吸入方法にはいくつか種類がありますが、多いのは内部のピストンを操作する、ピストン式と呼ばれるものです。
ピストン式の場合、尻軸を回転させることで内部のピストンを上下させ、インクを出し入れすることができます。


また、カートリッジやコンバーターを使ってインクを補充する万年筆の場合は、尻軸は同軸と一体化しているケースがほとんどです。
4.キャップ
キャップは万年筆のペン先にかぶせるパーツで、基本的な機能や役割は以下の二つです。
- ペン先の保護
- インクの乾燥を防ぐ
一つ目のペン先の保護はボールペンのキャップと同じです。
万年筆は特にペン先が繊細で破損しやすいため、キャップは重要です。
また二つ目のインクの乾燥については、ボールペンとは事情が異なります。
ボールペンのインクは外気と遮断されており、キャップをせずにしばらく放置していても書くことができます。
一方で万年筆は、ペン芯に空気穴がありインクタンクと外気は繋がっており、ボールペンに比べるとずっとインクが乾燥しやすいのです。
そのため万年筆は、キャップをしないで置いておくとすぐにインクが乾いて書けなくなってしまいます。



書き終わったらすぐにキャップを閉めよう!
5.その他:インク補充機構
万年筆の4つの主な構造に加えて、インクの補充機構についても説明します。
万年筆を使って字を書くためにはインクを補充する必要があります。
インクの補充方式は、大きく分けて下記の3種類があります。
①カートリッジ式 | ②コンバーター式 | ③吸入式 |
---|---|---|
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カートリッジという小さなプラスチック製の容器にインクが入っている ボトルインクを買う必要がない | コンバーターという容器を万年筆に装着する ボトルインクからコンバーターの吸入機構を使ってインクを吸い込む | 万年筆にインクの吸入機構が内蔵 高価格帯の万年筆に多い |
このうち①カートリッジ式と②コンバーター式は、別売りのプラスチック製の容器を用意し、首軸に差し込むことでインクを使えます。
一方で③の吸入式は、万年筆の内部にインクの吸入機構が内蔵されており、直接インクボトルからインクを吸いこむことができます。
上の尻軸のパートでの説明の通り、尻軸を回すなどの操作をすることによってインクの吸入/排出をすることができます。
まとめ
- 万年筆はペン先・ペン芯・ボディ・キャップの4つから構成されている
- ペン先は「万年筆の頭脳」と呼ばれ、書き味を決める重要な部品
- ペン芯は「万年筆の心臓」と呼ばれ、毛細管現象を利用しペン先にインクを送り続ける
- ボディは万年筆の持ち味を決めると共に、インクを格納する
- キャップはインクの乾きを防止する
万年筆の仕組みは知れば知るほど興味深いですね。
本記事の内容は、新しい万年筆を選んだりメンテナンスをする際にも必ず役に立つはずです。
まずは基本をマスターして、楽しい万年筆ライフに生かしましょう!
参考文献
「万年筆バイブル」(2019)、講談社
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