「あれ?インクが出ない」
万年筆を使っていると必ず経験しますよね。万年筆はボールペンや鉛筆に比べて構造が複雑であるため、原因も一つではありませんし、どのように対処すべきかも様々です
そこで本記事では、万年筆のインクが出ない場合の対処法について詳しく解説します
インクが出ない原因
まずはそもそもインクが出ない原因を見ていきましょう

インクがでない原因は5つに分けられるよ!
原因①:インクが固まっている(※使用歴のある万年筆のみ)
万年筆を使用した後にインクがペン先や万年筆内部に残っていると、残ったインクが乾燥して固まります。万年筆を長時間使わなかった場合に起こりやすい現象です
インクが固まると万年筆が書きにくくなるだけでなく、インクの通路が詰まってしまうこともあります。その結果ペン先までうまくインクを供給できず、インクが出ない原因になります
過去に使用されたことのある万年筆が書けない場合の多くが、この原因によるものです
逆に言えば固まったインクさえ取り除けば問題が解消するケースがほとんどですので、インクが出ない場合はまず洗浄をしっかり行うことが大切です
なおこの原因は以前に使用したインクが元になっているため、新品の万年筆では生じません
原因②:インクがペン先まで届いていない(※カートリッジを使用字のみ)
カートリッジを使う万年筆の場合、カートリッジを取り付けてからすぐに書くことができるわけではありません。インクが万年筆の内部を通過しペン先に届くまである程度の時間がかかります
粘度の高いインクや、使い始めてから時間が経ち水分が少なくなっているインクを使っている場合、特に発生しやすくなります
通常であればペン先を下にして15分~30分程度待てばインクはペン先まで浸透します。もしそれでも書けないのであれば、他に原因があると考えられます
原因③:コンバーターやカートリッジが合っていない
カートリッジの規格はメーカーによって異なります。そのため異なるメーカーのものを使うとインクが適切に排出されず、書くことができない原因になります
原因④:万年筆自体に問題がある
ペン先に異常があるとインクがうまく紙まで届きません。ペン先は非常に繊細な部分なので、少しのずれや傷でもインクが出にくくなります
またペン先にインクを供給する内部構造に何らかの不具合があることもあります。この場合、外見からその不具合を見つけることが困難であり、修理も専門家に依頼する必要があります
原因⑤:書き方に問題がある
万年筆はボールペンや鉛筆と異なり、書くことができる角度が狭く限定されています
具体的にはペン先の刻印がある面を上にし、45°から60°の角度でペン先を紙に当てることが必要です。極端にペンを立てたり寝かせたりすると、万年筆自体に問題がなくてもインクが出ません
この場合は正しい角度で書くように矯正することでインクは出るようになります



以上、インクが出ない原因5選でした
ここからはインクが出ないときの対処方を具体的に説明していくよ!
インクが出ないとき Step1:ペン先と首軸の洗浄
ここからは万年筆のインクがでないときにすべきことを4ステップに分けて解説します
上でも述べた通り、インクが出ない場合の原因の多くがインクが固まっていることにあります。そのためまず最初に洗浄をします
基本的には日々のメンテナンスで行う洗浄と同じ方法になります
胴軸から首軸を取り外す


万年筆は大きく分けると
- ペン先 … インクが出るスリットが彫られた金属部品。万年筆の最重要部分
- 首軸 … 持つときに万年筆を握る部分。ペン先と胴軸を繋いでいる
- 胴軸 … インクの収納スペース
- キャップ …インクの乾燥を防ぐためにペンの先端部分を覆うカバー
の4つの部分から構成されています。このうちインクが通るのはペン先と首軸ですので、この部分を胴軸から取り外します。取り外し方はモデルによりますが、ネジ式になっていることがほとんどです
なおインク吸入機構が内蔵されているタイプに多いのですが、首軸と胴軸を分離することができない万年筆があります。その場合は取り外し不要です
ぬるま湯につけて一晩放置
容器にぬるま湯を用意し、先ほど取り外した首軸+ペン先を入れます。このまま一晩放置します。ペン先や胴軸内部にて固まっていたインクが水に溶け、詰まりが解消されます。
絶対に熱湯は使わないでください。軸の劣化や変形を引き起こす場合があります。


インクを洗い流す
ペン先を取り出し、付着しているインクを洗い流します
ペン先を下にしてカートリッジを取り付ける部分から水道水を入れ、ペン先から色のついた水が出る場合は、その水が透明になるまで水道水で洗い続けます
コンバーターを持っている場合は、万年筆にコンバーターをセットします。コップなどに入れた水、またはぬるま湯にペン先全体を入れ、インクを吸入する要領で水を吸い込まあと吐き出させる作業を繰り返します。水を入れ替え、何度か同じ作業を行い、水がきれいになるまで洗浄します
水分を拭き取る


ペン先に付着した水分を優しく拭き取ります。拭いた時に染み込む水が透明になっていれば洗浄完了です
もしまだ色のついた水が出てくる場合は、水道水でインクを洗い流す作業を繰り返しましょう。汚れがひどい場合は、再度ぬるま湯につけて一晩放置してみましょう
インクが出ないとき Step2:万年筆の状態を確認する
洗浄が終わったら万年筆の状態を確認します
洗浄によって問題が解決してればこのステップで終了ですが、もしそれでもインクが出ないようであればステップ3へ進みます
ペン先の状態を確認する
洗浄してペン先がキレイになったところで、ペン先が下記のいずれかになっていないか確認します
- ペン先が曲がっている、破損している
- スリット(ペン先の切りこみ)の開きが小さい
- ペン先とペン芯とがずれている
上記に当てはまる場合はペン先の調整・修理が必要となります。初心者は自分で行うことは難しいため、この段階で専門家へ相談しましょう
インクを正しく充填
ペン先に問題がない場合は、洗浄した首軸にカートリッジを正しく装着します
カートリッジの押し込みが足りないとインクが首軸に入って行かないので、しっかりと押し込んで装着します。この時、挿入方向に対してまっすぐに力をかけるようにしましょう
カートリッジがその万年筆に対応したものであるかも確認しましょう。メーカーが異なっていて非対応のカートリッジの場合、インクが出ない原因になります
コンバーターや内部吸入式の場合は、インク瓶からインクを吸入します
ペン先を下にして、数分待つ(※カートリッジの場合のみ)
上でも述べた通り、カートリッジを使う場合は装着してから書けるようになるまで15分~30分程度かかります。ペン先を下にして30分程度待ちましょう
30分経ったら試し書きをします。ここでインクが出るようになっていれば問題解決です
それでも出ない場合はカートリッジの真ん中を優しく押す
試し書きでインクが出ない場合や出が悪い場合は、インクがまだペン先まで浸透していない可能性があります。カートリッジの真ん中を優しく押してみましょう
強く押しすぎるとインクが急に出てきてしまうことがあるので、力の入れすぎは厳禁です
また、インクが出ない場合に無理にペン先を紙に押し付けて書いたり、ペンを振ったりすることもNGです。いずれも万年筆を破損させる原因になります
もしそれでもインクが十分に出ない場合は次ステップへ移りましょう
インクが出ないとき Step3:薬剤を使って洗浄(※使用歴のある万年筆のみ)
万年筆の内部に長期間置いておかれたインクは非常に硬く固まってしまい、ぬるま湯だけでは十分に洗浄できない場合があります。そのような場合はインクを除去するための専用の薬剤を使うことがおすすめです
例えば以下のような薬剤があります
- 万年筆クリーニングセット(ペン先首軸洗浄液)… PILOTの製品
- 万年筆洗浄液ライニガー … 筆記具専門店のKINGDOM NOTEおすすめの洗浄液
使用方法は薬剤の種類によりますので、説明書を読んで手順に沿って洗浄をします
また洗浄液によっては使えない万年筆もあります。例えばPILOTの万年筆クリーニングセット(ペン先首軸洗浄液)は、スクリュー式のカスタムヘリテイジ92などに使えません。洗浄液を使う前に確認しましょう
薬剤での洗浄を終えた後は、再度Step2の手順でインクが出るかの確認をしましょう
インクが出ないとき Step4:専門家に相談
Step3までを実施してそれでもインクが出ない場合は、万年筆自体に原因がある可能性が高いです。専門家へ相談し、必要であれば修理を依頼しましょう
相談先
相談先としては購入した店舗の他、全国各地の文房具店などで開催されるペンクリニック、メーカーの相談窓口などがあります
購入した店舗であればアクセスしやすいので、まずは店舗へ相談してみましょう
また相談窓口を設けているメーカーもあります。もし店舗への相談が難しい場合は直接メーカーへ問い合わせをするのも手です
- セーラー お問い合わせ
- パイロット 筆記具修理お問い合わせ
- プラチナ お客様相談係
- モンブラン お問い合わせ
- ペリカン お問い合わせ
インクが出ないときにやってはいけないこと
インクが出ないとどうしても焦ってしまうものです
僕が最初に手にした万年筆は父からプレゼントとしてもらったものですが、インクが出なくなった際に無理にペン先を紙に押し付けて変形させてしまいました。。
ここではインクが出ないときにやってはいけないこと3つを解説していきます



大切な万年筆を壊さないためにも注意しよう!
ペン先を紙に押し付ける
ペン先を無理に紙に押し付けると、ペン先のスリット(切り欠き)が開くように変形して元に戻らなくなる危険性があります。スリットが開いてしまうとインクが出すぎたり書き味が変わってしまいます
また最悪の場合はペン先が折れたり破損することもあります。こうなるともう元に戻すことは不可能です。ペン先は万年筆の心臓部です。無理に押し付けることは避けましょう
万年筆を振る
「インクがペン先に届いていないのかな?」と思ったときによくやってしまうのが、万年筆のペン先を外にして振ることです
万年筆を振るとインクが急に出て、周りに飛び散る可能性があります。また振った際にペン先がどこかにぶつかって破損、、なんてことになると取り返しがつきません
どうしてもという場合は、少なくともキャップをつけて優しく数回だけ振りましょう
正常な万年筆であれば振らずともインクはペン先まで届きます。振らないとインクが出ないのであればどこかしらに異常があるため、振らずに原因を探しましょう
分解する
万年筆を分解して内部を調べるというのは、インクが出ない原因を探すために本来は有効な手段です。しかし初心者の方は分解はおすすめしません
万年筆を分解するためには知識と経験が必要です。ペン先を外す際の力加減などを間違うとペン先の破損を引き起こし、元に戻らなくなるリスクがあります
自分で分解せずに、必要なときには万年筆の専門家に依頼しましょう



万年筆が壊れてしまっては元も子もないね
迷ったら専門家に相談しよう!
まとめ:慌てずに原因を調べて対処し、分からなければ専門家に相談しよう
インクが出ない場合でも、適切に対処をすればほぼ全ての場合でまた使えるようになります。逆にNGな対処をしてしまうと万年筆を破損し使えなくなってしまいます
万年筆をまた楽しく使えるように、焦る気持ちを抑えつつ一つ一つ丁寧に確認・対処していきましょう
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